10/9 17:49 更新

AIに書かせて、
自分では読み返してないよね

――ある読者が、発表した側に

写真はイメージ 撮影 Saalebaer/CC0(ウィキメディア・コモンズ)

10/7 12:58 / 発信国:米国

AIが室温の磁性半導体を2つ設計 米国の報告が自ら書いた宿題

ある町工場に、まだ試作もしていない部品の図面が1枚届く。描いたのは職人ではなく計算ソフトで、材料の一部は輸入に許可が要る金属だ。

設計したのはAI、測った人はまだいない

これは日本の話ではない。米国のAI評価会社Vals AIが2026年10月4日に公開した報告である。Claude Opus 5.5のエージェントに密度汎関数理論(DFT)という量子力学の計算を回させ、「ラッティンガー補償型」と呼ばれる磁性半導体の候補を2つ挙げた。上向きの原子と下向きの原子の磁気が打ち消し合い、正味の磁力はゼロなのに、電子をスピンの向きで選り分けられる材料だ。スピンで情報を記憶する素子の土台になる。報告によると、2025年の研究は、室温で動くこの種の材料を未達の目標に挙げていた。

材料を焼き固める実験用の炉
写真はイメージ 撮影 Brammers/CC0(ウィキメディア・コモンズ)

1つめはYBaMnFeO₅。イットリウム、バリウム、マンガン、鉄、酸素からなる新しい組成で、まだ作られたことがない。計算ではバンドギャップ2.35eV、磁気の秩序が保たれる温度は約420K、補正後は約490K。ただし950K付近でマンガンと鉄の市松模様が崩れるため、必要な並びのまま焼き上げられない可能性があると、報告自身が認めている。

2つめはKV[Cr(CN)₆]。カリウム、バナジウム、クロム、炭素、窒素からなり、顔料のプルシアンブルーと同じ系統で、1999年に作られた例がある。バンドギャップ2.1eV、磁気秩序の温度は376K(103℃)で室温より高い。ただし1999年の試料は水を含んでおり、計算方法を2つ試すと結論が食い違った。どちらの材料も、バンドギャップもスピンの選別も、まだ実測されていない。

1つめに入るイットリウムは、中国が2025年4月4日に輸出の許可制に加えた7つの中・重希土類の1つである。10月に広げた分は11月7日から1年間停止されたが、4月のこの7元素は停止の一覧に入っていない。作れるかどうかが怪しい候補のほうが許可の要る元素を含み、すでに一度作られた候補は顔料と同じありふれた元素でできている。

2023年、関係のない会社の株が1日で60%上がった

2023年7月、韓国の研究者が室温・常圧で超伝導を示すとする物質「LK-99」の論文を公開した。ブルームバーグによると、8月1日に米国のアメリカン・スーパーコンダクターの株価が1日で60%上がり、出来高は平均の43倍を超えた。同社はこの研究と関係がないとみられていた。

株価のチャートを映した画面
写真はイメージ Photo by Maxim Hopman on Unsplash

8月2日に発足した韓国超伝導低温学会の検証委員会は、公開された論文と動画が超伝導の主張を支えているとは認めなかった。15以上の研究室が再現に失敗し、8月半ばには室温の超伝導体ではないという見方に落ち着いた。株価は、論文が出た段階で動いていた。

今回の報告は、確かめる材料を自分で出している。入力ファイル、生の出力、解析コード、結果を検算する仕組み、既知の注意点の一覧がGitHubに置かれている。

ネットの評判

技術者が集まるHacker Newsでは、10月7日時点で482点・325件のコメントが付いた。磁性材料の博士だという読者は、記事の導入を「bizarre」と評し、磁性を強磁性と反強磁性の二択で説明するのは誤りだと指摘した。冷蔵庫のマグネットの説明も違い、実際はフェリ磁性だとの訂正も付いた。別の読者は「Claudeに書かせて、自分では読み返していないのだろう」と書き込んだ。批判の中心は、合成と測定が済むまで「発見」とは呼べないというもの。一方で、人より速く組成の組み合わせを走査できる点に価値があり、検証を前提にすれば使えるという声もある。

報告が自ら挙げた次の一歩は、新しい方の材料を作ることではない。1999年に一度作られ、それ以来スピンの選別を測られていない粉を、もう一度作って測ることだ。

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出典

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