10/10 22:05 更新

千人いる病院で、
診るのは二人だけ

――ある受付が、患者に

写真はイメージ Photo by İsmail Enes Ayhan on Unsplash

10/7 16:33 / 発信国:フランス

フランス発「1兆パラメータ」のAI、実際に動くのは490億

千人の医師が籍を置く、大きな病院を思い浮かべてほしい。受付で「お腹が痛い」と伝える。すると診察室に出てくるのは、二人だけだ。残りの998人は、その日あなたの前に現れない。会計も、二人ぶんで済む。

病院の話ではない。フランスのAIの話だ

これはたとえ話で、実際の舞台はフランスである。

パリの街並み
写真はイメージ Photo by Dimitri Iakymuk on Unsplash

AIの会社Mistral AIが2026年10月6日、新しい言語モデル「Mistral Large 4」を公開した。社内での呼び名は「le Chonk」。数字が派手だ。モデルの大きさを示すパラメータの総数は1兆。ところが、質問に答えるときに実際に動くのは490億だという。全体の5%に届かない。

試し書きができるAPIは、その日から使えるようになった。モデル本体にあたる重みも配るという。Mistralをオープンウェイトの会社と呼ぶのは、このためだ。公開は10月27日の予定で、独自のライセンスが付く。

なぜ、使わないものを9割以上も抱えているのか。

1兆のうち、働くのは490億

Mistralが取っているのは、専門家混合(MoE)と呼ばれる作りだ。会社は、前のモデル「Mixtral」の説明ページで、この仕組みを自分で書いている。

病院の廊下
写真はイメージ Photo by Cory Mogk on Unsplash

モデルの中を8つの「専門家」に分ける。文章を処理する層ごと、単語のかたまりごとに、ルーターと呼ばれる振り分け役が、そのうち2つを選ぶ。選ばれた2つだけが働き、出した答えは足し合わされる。受付が症状を聞いて担当を決めるのと、同じことをしている。

得をするのは、速さと値段だ。Mixtralは全部で467億のパラメータを持つが、単語のかたまり1つに使うのは129億。だから129億のモデルと同じ速さ、同じ費用で動く、と会社は書いている。Mistral Large 4も理屈は同じだ。1兆の看板を掲げながら、動かす手間は490億ぶんに近い。

値段はこうなっている。100万トークンあたり、入力が1.36ドル、出力が4.18ドル。

では、手元のパソコンで動くのか。ここが知りたいところだが、今回読んだ出典には、どれくらいの機材が要るかは書かれていなかった。分かっているのは作ったほうの規模だ。欧州にある自社のデータセンターで、NVIDIAのGrace Blackwell GPUを3,800基使い、ゼロから約2か月かけて学習したという。

もう一つ、ややこしい話がある。1兆という数字は、賢さの順位とは別物らしい。AIの評価サイトVals AIの総合指標で、Mistral Large 4は44モデル中32位、スコアは48.05%だった。真ん中より下である。

ただ、得意な分野ははっきりしている。プログラミングのDeepSWE v1.1は61.7%で、中国のGLM-5.3(61%)やDeepSeek-V4-Pro(57%)を上回った。セキュリティのCyberBenchは93%。法律の指標では75モデル中6位に入っている。

ネットの評判

発表のページは、技術者が集まる掲示板Hacker Newsで、その日の1位になった。10月7日の午後の時点で1,719点、コメントは1,012件が付いている。

目立つのは、数字の見せ方への疑いだ。比べる相手の選び方が都合よすぎる、他社の新しいモデルを外して古いほうと並べている、という指摘が並ぶ。モデルの出来を見る定番になっている「ペリカンが自転車に乗る絵を描かせる」試しでも、声が出た。推論の強さを「なし」にしても「高」にしても絵がほとんど変わらず、設定を切り替えた意味が分からない、という報告だ。2つの絵が似すぎているので、この試しに合わせてあるのではないか、と疑う書き込みもある。

評価する声もある。重みを配るという決断と、価格の安さだ。逆に、中国の企業が公開した研究に乗っているだけではないか、という批判も出ている。VentureBeatも、公開されているDeepSWEの順位表ではGLM-5.3やKimi K3が69%前後に届いており、Mistralの数字が飛び抜けているわけではないと書いている。

最後に、名前の話をしたい。「le Chonk」は、太った猫を指すネットの言い回しからきている。VentureBeatによれば、元は2026年6月にXとRedditで出回ったミームで、フランス製の巨大モデルという架空の仕様表だった。CEOのアルチュール・マンシュ氏も、その冗談に乗った。冗談で書かれた架空の仕様表が、4か月後に本物として出てきた。

出典

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