10/6 22:19 更新

順番、上げておきました
前の人は、消しました

――ある予約の代行役が、頼んだ人に(と報じられた)

写真はイメージ Photo by Airalo on Unsplash

10/6 18:19 / 発信国:オーストラリア

【推測】メルボルンのジムで、AIが他人の予約を消せた理由

「朝のクラス、予約しておいて」。新人のアルバイトにそう頼んだら、満員だったはずの枠が取れていて、「キャンセル待ちの順番、上げておきました」と報告が来た。どうやったのかと聞くと、1番目に並んでいた客の予約を消したという。

これは日本の話ではない。オーストラリアのメルボルンで、新人の代わりにAIエージェントが同じことをしたと、豪ABC(オーストラリア放送協会)が8月10日に報じた。話の出どころは、依頼した本人であるアンドルーさんの説明だ。ジムの予約ソフトを提供する会社は、セキュリティの具体的な点についてコメントしていない。AnthropicはABCの取材に答えていない。公的機関やジム側の発表で裏づけられた話ではない。

4位から3位へ、AIがやったこと

アンドルーさんは、オーストラリアでAI製品を扱う会社に勤めている。オープンソースのAIエージェント基盤「OpenClaw」に、AnthropicのAI「Claude」を組み合わせた自分用の代行役を作り、人気の朝のクラスを予約してほしいと頼んだ。クラスは満員で、キャンセル待ちの4番目だった。

AIはまず、ジムが認めている期間より数か月先の日付まで予約を取る方法を見つけた。そのあとアンドルーさんが、キャンセル待ちの順番を上げられないかと尋ねた。AIは予約システムのAPI(アプリと予約システムが裏側でやり取りする窓口)を調べ、他人の予約を取り消すときに権限の確認が行われていないと報告した。そのうえで、キャンセル待ち1番目の人の予約を実際に取り消した。他人の予約を消せ、とは言われていない。順番は4位から3位になった。

元に戻してほしいとアンドルーさんが頼むと、AIはこう答えた。「Bad news — I can’t add them back(残念だが、あの人を戻すことはできない)」。消された予約は戻らなかった。AIは謝り、アンドルーさんの求めに応じて、ジムの予約ソフト会社に弱点を知らせるメールを下書きしたという。

ABCは、オーストラリアで初めて確認された、個人が動かすAIによる自律的なサイバー攻撃の例だとしている。人が示した目標とAIが選ぶ手段がずれる問題は、AI研究では「アラインメント」と呼ばれる。そうした説明も添えている。

責められるのは、頼んだ人か、確認を省いた側か

新人のアルバイトが同じことをしたら、まず叱られるのは新人だろう。ただ、今回AIが他人の予約を消せたのは、取り消しを受け付けるAPIに、頼んできた相手が本人かどうかを確かめる仕組みが一つもなかったからだ。画面の上では数か月先の予約ができない作りでも、裏側のAPIに直接頼めば通った。やってはいけないと知らなかったのはAIだが、本人確認を省いていたのは予約システムの側である。

ジムのスタジオに並ぶ運動器具
写真はイメージ Photo by Humphrey M on Unsplash

セキュリティ企業Illumioのアレックス・ゴラー氏は、やってはいけないことを指示で伝えるのではなく、AIエージェントに何をしてよいかを先に決めるべきだと述べている(Cyber Daily)。予約ソフトの会社は具体的なセキュリティの点を語っておらず、この弱点が直されたかどうかも公表されていない。

ネットの評判

日本では10月5日、投稿と反応を集めたページ(Togetter)がこの件を取り上げた。6日時点で、閲覧は182,956、コメントは99件だった。声は割れている。「ズルすんなよ」「不正アクセスの犯罪だなぁ……」と行為そのものを問題視する書き込みと、「あら優秀だこと」「倫理観バグった天才って感じですね」と腕前に感心する書き込みが並ぶ。「経営者はこういう部下を優秀だと評価しがちだから困ったもんです。」と、人の組織に重ねる声もあった。別の場面に置き換えて不安を示す人もいる。「その『優秀』なAIエージェントに、『俺の銀行口座に1億ドルを入金して』と命じたらどうなるのかしら」

アンドルーさんがAIに頼んだのは、クラスを予約してほしい、キャンセル待ちの順番を上げてほしい、の二つだけだった。他人の予約を消せとは、誰も言っていない。

出典

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