10/6 22:19 更新

100から7を
引いてください

――ある研究が、5,231人に

写真はイメージ Photo by Austrian National Library on Unsplash

10/4 19:20 / 発信国:ドイツ

東ドイツ育ちは認知テストが上 「教育の差」で説明できるのか

100から7を引く。これを5回まで続けてもらう。欧州の高齢者を追う大規模調査SHAREが実際に使っている検査である。

ドイツ・コンスタンツ大学のAriane Bertoggと、米マサチューセッツ大学ボストン校のJeffrey E. Stokesは、このデータで、1989年時点で東ドイツか西ドイツに住んでいた50歳以上の5,231人を追った。東ドイツ側が4つの検査すべてで成績が良かった、というのが結論である。論文は学術誌「Research on Aging」に載った(48巻7-8号351〜364頁、オンライン公開は2025年10月4日)。

測ったのは、動物の名前と日付と引き算

使ったのは2004年から2021年までの8回分の調査。追跡は1人あたり平均4.16年。検査は4つある。10個の単語を聞いた直後に思い出す記憶、1分間に動物の名前を挙げる言語流暢性、曜日・日・月・年を答える見当識、そして100からの引き算。東ドイツ側はすべてで上回り、年齢とともに下がる速さも緩やかだった。

ベルリンの壁の一部
写真はイメージ Photo by Claudio Schwarz on Unsplash

東ドイツは健康状態が西より悪く、統一から10年たっても男性の平均寿命は西を下回っていた(女性は差が縮んだ)。それでも検査では上だった。著者が説明に挙げたのは教育制度である。東ドイツの義務教育は6歳から16歳までの10年、西ドイツの州は8年か9年。保育所の利用が広く、学校で生徒が進路別に分かれる度合いも小さかった。幼いころの教育が、衰えを受け止める「認知予備力」を作るという見立てだ。

ネットの評判

GIGAZINEが10月3日に日本語で伝え、はてなブックマークでは10月4日時点で57人がブックマークし、18件のコメントが付いた。

目立つのは、生き残った人の偏りを疑う声である。平均寿命が短いのに認知機能が高いのは、丈夫な人だけが高齢まで残ったからではないか。1950年代の東ドイツは乳幼児死亡率が高かったと書く人もいた。一方で、教育年数が長い人ほど高齢期の成績が良いという結果は各国で一貫している、と教育の説明に沿う声もある。

論文にはこの偏りの検証がある。身体の健康やうつ症状、生活の質を加えたモデルを別に推定すると(対象者は25〜34%減)、東西の差はほとんど変わらなかった。認知症と診断済みの人を除いた分析でも結果は安定した。ただし検査の天井効果や、脱落・死亡による偏りを完全には除けていないとも書いている。

「教育の差」の方は、測られていない

ここからは筆者の見方である。揺らいで見えるのは、生存の偏りよりも教育という説明の側だ。

机に積まれた論文の束
写真はイメージ Photo by Wesley Tingey on Unsplash

論文は学歴をISCEDの3段階で統制したうえで差を見ている。学歴をそろえてもなお差が残った、という形である。著者自身、東西で違ったのは教育だけではないと限界に書く。ガソリンの鉛(車が少なかった東より西で曝露が多い)、娯楽目的の薬物の使用(西が多い)、市民社会への信頼と権力の恣意から守られている度合い(西が高い)。前の2つは東に、後の1つは西に有利に働きうるが、個人ごとには測れなかったという。

年齢ごとの結果もそろっていない。要旨は「統一を20代で迎えた層で東ドイツの優位が最も顕著」と書く。だが本文では、記憶と言語流暢性の差が最大なのは40代で統一を迎えた層である。キャリア後半で迎えた層では、見当識を除いて差が消えた。差は男性の方が大きい。なお論文は統一を「1989年11月」とするが、その月に開いたのはベルリンの壁で、国家としての統一は1990年10月3日である(ドイツ外務省)。

学歴の層ごとに分けた追加分析もある。義務教育が2年長いことが効いたのなら、学校に長く通わなかった層でこそ差が出そうに思える。結果は逆だった。中学歴・高学歴の層では東ドイツ側の優位が時間を通じて安定していた一方、低学歴の層では、記憶・言語流暢性・数的処理で西ドイツ側が先に上回っていた。

出典

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