10/6 22:19 更新

方言で話すのは、
失礼だ

――ある知事が、漁師に

10/2 12:37 / 発信国:フランス

カリブ海の島で消えた、漁師の「網」の話

ある港町の漁師が、長年使ってきた網を県の決まりで禁じられた。暮らしが立たない。そこへ東京から赴任した知事が視察に来た。漁師は思いの丈を、いつもの言葉でぶつけた。すると知事は言う。「方言で話すのは失礼だ。私は分からないから、標準語で話してほしい」。

腹が立つのは、言葉を咳められたことだけではないはずだ。網の話をしに来たのに、話し方の話にすり替わった。そこがいちばんこたえる。

実際に起きたのは、カリブ海の島

これは日本の話ではない。実際の出来事を、日本の港町に置き換えたたとえである。

舞台はフランスの海外県グアドループ。9月28日、島の北部にある漁港サント=ローズで、知事が困窮を訴える漁師たちと面会した。その席で知事は、地元の言葉であるクレオール語で話しかけた漁師に「クレオール語で話すのは、私への敬意を欠く」と述べた。漁師は「クレオール語はグアドループの遺産だ」と返した。この場面の動画が広まって批判が集まり、知事は翌29日、「不適切な言い方だった。本当に申し訳ない」と動画で謝罪した。

漁師が言いたかったこと

グアドループの漁師たちが訴えていたのも、言葉の問題ではなかった。レユニオンの媒体Imaz Pressによれば、抗議の的は、2025年7月に県が出した三枚網の禁止命令だった。三枚網は、魚の種類を選ばずに獲ってしまうとして禁じられた漁具である。漁師たちは、地域の漁業委員会の委員長を解任することも求めていた。

ところが、今回確認した現地3媒体のうち、この本題まで書いていたのは1媒体だけだった。残りは、発言と謝罪を伝えるところで終わっている。動画は広まり、知事は謝った。だが、網をどうするのかという話は、少なくともこれらの報道からは見えてこない。

騒ぎやすい話が、本題を押し流す

知事にも言い分はある。言葉が分からなければ、訴えの細かいところまで理解できない。本人も謝罪の中で、漁師の困難を正確に知りたかったと説明した。フランスの憲法は「共和国の言語はフランス語である」と定めており、役人がフランス語を求めること自体は制度に沿っている。問われたのは「敬意を欠く」という言い方のほうだ。

ただ、結果として起きたことは単純である。分かりやすい失言が一つあれば、人の関心はそちらへ流れる。怒るのも、謝るのも、評価するのも簡単だからだ。網の禁止が妥当かどうかを考えるには、漁の実情も資源の状態も知らなければならない。手間のかかる話は後回しになる。

これは日本でも見覚えのある構図ではないか。誰かの一言や私生活の騒ぎが何日も話題を占め、その陰で、暮らしに直結する制度の話が素通りされていく。グアドループの漁師の網は、その分かりやすい実例に見える。

出典

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