10/6 22:19 更新

赤ペンで書いた紙でも、
遺言になるのか

――最高裁が、その一行を認めた

写真はイメージ Photo by GR Stocks on Unsplash

10/4 12:15 / 発信国:日本

白い紙に赤ペンで一行、13億円が田辺市へ 最高裁

和歌山県田辺市の資産家で、会社社長だった野崎幸助さんの遺言書をめぐる争いが決着した。最高裁第三小法廷(沖野真已裁判長)が、遺言書は偽造だと訴えていた親族側の上告を退けた。決定は9月30日付で、裁判官5人の判断は一致した。13億円を超えるとされる遺産は、遺言のとおり田辺市に渡る。野崎さんが亡くなったのは2018年5月、急性覚醒剤中毒だった。77歳だった。

争点になった一行

問題の紙は2013年2月8日付。白色無地に赤いペンで「いごん 個人の全財産を田辺市にキフする」と書かれ、署名と押印があった。判決によれば、遺産は2019年7月時点で約15億円。市は2019年に受け入れる方針を表明した。野崎さんの兄ら親族は訴えを起こした。

親族側は、字が不自然で、田辺市に寄付する動機にも説明がつかないとして、偽造された可能性が高いと主張した。和歌山地裁は2024年6月、筆跡鑑定の結果から野崎さん自身の字と認めた。市へ1000万円以上を寄付してきた実績と、これからも続けるつもりだと話していたことも、判断の材料になった。報道によれば、地裁は、野崎さんが日ごろ赤いペンをよく使っていた点にも触れている。大阪高裁は2025年9月、この鑑定の扱いにおかしなところはないと述べ、本人が書いて印を押し、自社の取締役に預けたとみた。上告した親族に、元妻は入っていない。

田辺市の真砂充敏市長は、遺言書を有効とした原判決が確定し、市の主張が認められる結果になったとして、引き続き適正な対応に努めるとコメントした。

民法は、インクの色を決めていない

赤ペンで13億円が動くのか、と身構えた人もいるだろう。だが民法968条が自筆証書遺言に求めているのは、全文と日付と氏名を自分の手で書くこと、そして印を押すことだけである。法務省が方式を説明したページにも、インクの色や用紙の種類についての条件は見当たらない。

形式が細かく決まっている場面もある。法務局に自筆証書遺言を預ける制度では、用紙はA4で、上部5ミリ、下部10ミリ、左20ミリ、右5ミリの余白を空けるよう求められる。筆記具についても「消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用してください」と案内がある。預けたいなら、この形に合わせる必要がある。

裁判で問われたのは、ペンの色でも紙の体裁でもない。その字を本人が書いたのかどうかだった。決め手になったのは、筆跡の鑑定と、生前の寄付の積み重ね、そして日ごろの筆記具の癖である。

ネットの評判

毎日新聞の記事を載せたYahoo!ニュースのコメント欄には、1300件を超える書き込みが付いた。上の方に並ぶのは、自筆証書遺言が成立する条件を行政書士が解説するものや、相続人には遺留分を請求する権利があるはずだと説明するものである。

自治体への遺贈が非課税として扱われる点に、公平さの面から疑問を投げかける声もある。親族ではなく市を選んだ理由を推し量る書き込みや、元妻の刑事裁判の行方に関心を寄せる書き込みも並ぶ。

報じられている遺言の文面は、一行である。その紙が本人のものだと確定するまでに、死後8年余りがかかった。

出典

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