10/6 22:19 更新

心配しないで。
コンサートに行くんだから

――ある16歳が、隣の寝台で泣く母に

10/5 01:53 / 発信国:米国

母がくれた腎臓が48年目 生体腎移植がもつのは平均15〜20年

1978年3月2日、米ニューヨーク州ロチェスターのストロング記念病院で、16歳の少年が母から腎臓の移植を受けた。提供したのは当時52歳の母ベティ・ベトゥスキーさん。少年はレイ・ベトゥスキー氏で、その腎臓は48年たったいまも動いている。ロチェスター大学メディカルセンターは9月28日の記事で、レイ氏を同センターで最も長く移植腎が生着している患者だと伝えた。生体から提供された腎臓がもつ期間は、米国の患者団体ナショナル・キドニー・ファウンデーションによると平均15〜20年である。

手術の日のことを、レイ氏は地元局WHECにこう振り返っている。並べられた移送用の寝台の上で、母と手をつないでいた。母は泣いていた。そこで出たのが「心配しないで。コンサートに行くんだから、それを欠かすつもりはない」という言葉だった。WHECの記事はこの発言の主語を書いていないが、同じ場面を伝えた米ピープル誌は、レイ氏本人の言葉だとしている。同年3月30日、レイ氏はロチェスター・コミュニティ・ウォー・メモリアルでジェネシスの公演を見た(ピープル誌は手術の3週間後としているが、3月2日からは4週間後にあたる)。チケットの半券は、いまも持っている。

なぜ「100歳」で、なぜ48年もったのか

腎臓の年齢は、移植からの48年ではなく、提供した母が生まれた年から数えられている。ベティさんは2026年6月に100歳を迎えるはずだった。だから「100歳の腎臓」になる。ベティさんは2008年に亡くなっている。

病院の廊下
写真はイメージ Photo by Cory Mogk on Unsplash

レイ氏の腎臓は、10代のときにウイルスで大きく傷んだ。透析は成長期の体に負担が大きく、体重と体力が落ちていった、と大学の記事にある。母とは、遺伝的にほぼ完全に一致していた。

長持ちした理由について、同センターの移植医療部門責任者ミクロス・モルナー医師は、移植を受けたときのレイ氏の若さと、母子という近親の一致が土台になったと説明している。WHECには、母と息子がDNAを多く共有し、生物学的に近いことが大きいとも話した。ただ、それ以上の説明は大学の記事にも報道にも出てこない。モルナー医師自身、「まれな状況で、日常的に見るものではない」と述べている。レイ氏はいま、年1回の検査に通うだけでよい。医師は、この腎臓が残りの生涯もつと見ている。

聴診器とカルテ
写真はイメージ Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash

48年は、どれだけ外れた数字か

米国の相場は、先に挙げた生体の15〜20年。亡くなった人から提供された腎臓は8〜12年とされる。48年は、生体の平均の倍を超える。

日本の数字も見ておく。日本移植学会によると、移植腎の生着率は生体腎移植で1年98.6%、5年93.1%、10年83.9%。亡くなった人から提供を受ける献腎移植では、それぞれ96.6%、87.8%、70.0%になる。生体でも、10年で6人に1人の移植腎が働かなくなる計算だ。

件数では、2021年に国内で行われた腎移植1,773例のうち1,648例が生体腎移植だった。日本臨床腎移植学会と日本移植学会の登録集計報告による。生体のドナーの続柄は配偶者42.8%、親30.2%で、最も多いのは親ではなく配偶者である。

待つ側の数字も大きい。日本臓器移植ネットワークへの腎臓の移植希望登録者は、2025年3月31日時点で14,883人。同ネットワークは、腎臓の平均待機期間を約15年としている。米国の平均生着期間の下限と、日本で順番が来るまでの期間が、どちらも15年になる。国も制度も違う数字ではあるが、並べるとレイ氏の48年がどれだけ遠いかが見える。

ネットの評判

米国の技術者が多く集まる掲示板「ハッカーニュース」では、この話題に58件の書き込みが付いた。目立ったのは見出しの計算が分からないという声だった。母親が100年前に生まれ、その腎臓がいまも働いているのだと、説明し合っていた。自分も16歳で母から腎臓の移植を受け、19年もったと書いた人もいる。移植された臓器が受け取った側の生物学的な年齢に近づくという研究を挙げ、長持ちの理由を考える書き込みも続いた。

レイ氏と母は、移植の日を記念日(anniversary)と誕生日(birthday)を混ぜた「アニバースアリー」という手作りの言葉で呼び、30年間その日に食事をした。レイ氏は母への感謝として、全米の星名登録サービスで星に母の名前を付けたと、WHECに語っている。母が亡くなって18年。その腎臓は、48年目も動いている。

出典

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