10/6 22:19 更新

真顔で『クマが毛を震わせる』

中国で大流行した教材映像の号令

写真はイメージ Photo by Leona Lee on Unsplash

10/3 02:59 / 発信国:中国

真顔で「クマが毛を震わせる」 号令の主は文化観光省の局長を務めた人だった

真面目な顔の男性が、低い声で「狗熊哆嗦毛」と号令をかける。日本語にすれば、クマが毛を震わせる。そして「隆咚哐 隆咚哐 隆咚隆咚隆咚哐」という太鼓の口まねに合わせ、全身を小刻みに震わせながら、足を交差させていく。

この映像が2026年9月の中旬から下旬にかけて、中国の短編動画サイトで掘り起こされ、一夜のうちに再生数が数千万回に達した。ふざけて撮ったものだと思った人たちが、次々に真似をした。

ところが、出どころはふざけた場所ではなかった。『山東秧歌舞踊(基礎)訓練教材』、収録は2018年前後。号令をかけているのは明文軍氏である。北京舞踊学院の副院長と、中国の文化観光省(文化和旅游部)の芸術局長(芸術司司長)を務めた。真顔なのは、真面目な仕事中だったからだ。

笑っていた動きは、2006年に国家の宝になっていた

動きの正体は、山東省商河県に伝わる「鼓子秧歌」の基礎動作だ。2006年、中国の第1次国家級無形文化遺産に選ばれている。出どころをたどれば北宋に行き着くとされ、明・清を通じて形と規模が育った。

名前のほうは、誰が付けたのかはっきりしない。報道は、基礎動作の一つを切り出し、絵の浮かぶ名前を当てはめたものだと伝える。クマが毛を震わせる。身も蓋もないが、一度聞くと忘れない。

そして、簡単そうに見えて難しい。力は腰と腹から出し、腕へ、全身へと渡していく。それを十字に踏む足さばきと合わせる。大人数で揃うと、絵が一段大きくなる。

同じ時期に広まった「閃身歩」も、出どころは安徽省の花鼓灯だった。こちらも2006年の同じ一覧に載っている。女優の閆妮、歌手の汪蘇瀧、単依純、張藝興らが真似に加わり、閃身歩に関わる話題の再生数は6億回を超えた。流行っている二つを並べたら、両方とも国家級無形文化遺産である。

決め手は、舞踊劇『大染坊』の2.0版だった。2026年9月28日から10月1日まで、済南の山東劇院で4公演。ここから2回目の全国ツアーに入る。カーテンコールで、出演者が鼓子秧歌の一段をまとめて踊った。素人の真似が並ぶ画面に、鍛えた体が揃って震える映像が混ざった。これを「いちばんプロ版」と呼ぶ声が出て、抽象的なネタという見方は消えた。

商河県では、年600回を超える公演が続き、展示館も開いている。流行る前から、震えていた人たちはいた。伝承者の姚大新氏は、この動きが流行れば鼓子秧歌が多くの人に見られる、こんなにいいことはない、自分も踊る、と話した(騰訊新聞)。

つまり、面白半分で真似をした人たちは、授業料を払わずに、国家級無形文化遺産の第一歩を踏んでいたことになる。隆咚哐、隆咚哐。

出典

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